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業者選びのポイント

自費出版ブームとよばれるものは今から30年〜35年前に始まります。2005年〜2007年頃、著者と自費出版会社のトラブルが多発いたしました。
新聞広告により「あなたの原稿を募集します。選考で選ばれた場合、共同出版で出版費用は著者と当社が折半し、全国の書店にあなたの本が並びます」。そして……「自分の本が全国書店に流通し、印税が入る?」「自分の本がベストセラーになるかも…?」といった思い込みを煽る勧誘や誇大広告を多く目にしました。“共同出版”という名の怪しげな出版形態です。広告や勧誘で出版を依頼した著者の中には、“全国の800余の書店にあなたの本が並びます”と言われ出版契約を結んだにも関わらず、実際に数店の書店にしか配本されず、損害賠償請求訴訟に発展するという事態も。
 トラブルに巻き込まれないために、トラブルの実態を把握し、自費出版業者を選ぶポイントを考えてまいります。

自費出版をめぐるトラブル

 出版を受ける製作会社側のモラルの欠如が第一の原因です。そして発注者側である著者の情報不足や認識不足による思い込みが第二の原因といえるでしょう。

 

 3つのトラブル
料金をめぐるトラブル
出来上がった本の品質に関わるトラブル
自分の本が書店に出回っていないトラブル

 

1. 料金をめぐるトラブル

契約時の見積額と比較して納品後の請求額が大幅に高くなったという事例です。原因は二つあります。

 まず第一には、製作会社の見積項目が曖昧であったり、価格表の標準費用とオプションの区別が明確にされておらず、製作過程での仕様変更やオプションの発生に対して制作会社が依頼者との確認を疎かにしたために追加料金が発生した結果です。

 第二は、依頼者が見積書や契約書の内容を正確に把握しないまま契約し、そのまま本が作られ〈追加料金〉を請求されるというケースです。

 

2. 出来上がった本の品質に関わるトラブル

誤字脱字がある、ページによって印刷の濃淡がある、全体の本の造りとして著者自身がイメージしていた本とかけ離れている、等々です。

 また、次の事例は市販本でも稀に見受けられる欠陥ですが、比較的ページ数の多い本を開いてみて〈開きづらい〉〈開いても直に閉じてしまう〉という経験をされた方もいらっしゃると思います。用紙には繊維の流れ(流目)があって縦目・横目というように表現されます。書籍の場合は本の天地に紙の流目が通っていれば抵抗なくページをめくることが出来るのですが、逆に流目が本の左右(逆目)に通っていれば開きづらく、開いたページを両手で押さえなければ読むことが出来ないという致命的な欠陥となるのです。原因は二つあります。第一に考えられるのは製作会社が〈逆目〉であることを承知でコストダウンのために在庫の用紙を使用した場合です。第二は、あり得ないことなのですが、用紙の流目の知識もない製作会社(印刷会社)が存在するという事実です。
 これらの〈品質に関わるトラブル〉はその原因と責任の大半が制作会社にあると言えるでしょう。

複雑な3つの書籍流通システム
出版社(メーカー)▶️取次(問屋) ▶️書店(小売店)

1 委託配本             
 商業出版のほとんどがこの委託配本。書店の注文の有無に関わらず、出版社から持ち込まれた本を取次の配本方式で独自に全国の書店に配本されるシステムが委託配本。取次による配本方法に出版社の意向は反映されない。配本された書店は書店の判断で、限られたスペースの中で書店のどのコーナーでどの本をどの期間陳列するかを決める。委託配本は一定期間(約6か月)に売れ残った本を返品出来る仕組みがあり、書店の判断で売れる見込みのない本は荷ほどきすらされなまま返品されることもあるという。        
2 返品条件付き注文流通      
 1の委託配本とは違って、書店からの注文があって初めて配本されるシステム。通常書店からの注文で出荷した本は買い取制で返品できないが、出版社の販売促進のため一定の書店に働きかけ、返品条件付きで受注・配本をすることがある。これが返品条件付注文流通。                      
 自費出版会社で〈書店流通〉を謳っている場合はこの流通形態が主流。自費出版で書店に配本し販売するためにはそれなりの宣伝が必要となる。宣伝費用や返品後の本の修復費用が発生した場合、その分担をどするのか等を出版契約前に確認する必要がある。   

3 書店注文流通           
 書店からの注文を受け出版社が取次を通して書店に配本するシステム。この流通システムを主に担っているのが地方・小出版流通センター。地方や零細小出版社と取次の繋ぎ役といえる。            

3. 自分の本が書店に出回っていないトラブル

自分の本を出版された方は、多くの方に読んでもらいたいと考えるのは当然のことです。たとえそれが個人的な内容の自分史であってもです。自分の本が書店に並び、本が売れて制作費の一部をまかなえるという利益追求より、少しでも多くの読者を得たいという心情だといえます。

 “全国の書店にあなたの本が並びます”と謳う制作会社と契約をむすび、本を作ったものの全国はおろか近くの有名書店を廻り歩いても自分の本が見当たらないというケースです。原因は日本の複雑な書籍の流通システムの中にあります。またそれを承知のうえで〈書店配本〉を喧伝する制作会社の姿勢、利益至上主義に原因があります。

 出版不況が長引くなか、2000年に日本の書店数が22,300店あったのが2023年には10,918店にまで減少しました。販売不振の中小書店が閉店し、資本力のある書店の大型店舗化やネット書店の台頭が原因と考えられます。ロングセラー本は書店よりもネット販売で多く扱われていることも中小書店の利益を圧迫しています。

 右の資料〈複雑な3つの書籍流通システム〉を参照ください。自費出版制作会社のうち1の委託配本を行っているのはごく一部の大手出版社や新聞社の自費出版部門のみで、その他の“全国流通”を謳っている制作会社のほとんどは、2か3の〈書店からの注文流通〉方式をとっています。出版不況のなかで、名のある作家や著名人の本でも売れないという現実があります。複雑な流通システムの中で、自費出版本が全国の書店に一定期間並ぶことは稀で、たとえ数店の書店に本が並べられたとしてもそれらが実際に売れることは非常に難しい、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

自費出版業者を選ぶ4つのポイント

1. 依頼者の疑問、相談に対し適格で誠実な対応ができるか

以前に何かの本を出版された方は別として、初めて自身の本を出版される方にとって、自費出版を決断する最初の一歩はとても不安なものです。まず制作費用の不安があります。執筆の困難があります。また本の制作過程に対する知識がない方がほとんどだといえます。どんな本をどのように作るのか。

 これらの疑問、不安に対して明確に応え適切なアドバイスができるかを見極めましょう。そのためには、どんな些細なことでも初歩的な疑問でも分からないことは質問しましょう。制作会社に本づくりや出版に関わるノウハウの蓄積があれば、相談者に対して適切なアドバイスや回答ができるからです。明確で迅速、丁寧な対応が得られれば一応安心できる業者と判断できるでしょう。

2. 自費出版を含め書籍出版の実績があるか

制作会社が過去に作成した出版物を直接見ることをお薦めします。本文のレイアウトやデザイン、活字や用紙の選定など、全体的な本の出来映えは素人の著者にも現物を見ることによってある程度は判断がつくはずです。装幀や本づくりなどの全体の姿勢や傾向が判断できるからです。そのためには制作会社を訪問するか、遠方で不可能な場合見本を取り寄せる必要があります。その場合はご自身が希望するジャンルの見本を見ることが重要です。

3. 制作会社の特徴、特性を見極める

見極めるといってもなかなか難しいことです。直接訪問して見聞きすることが一番ですが、出来ない場合は電話やメールなどで問い合わせることになります。問い合わせる内容は事前に細かくメモをして以下の点を確認しましょう。

その制作会社の業態は何であるか、印刷会社なのか、出版会社なのか、自費出版の得意分野が何であるのか、社歴や出版点数はどれくらいか、などです。パンフレットやホームページでで公開している情報からもある程度は分かるでしょうが、やはり直接連絡して詳しく調べることが必要です。

 特に書店流通を希望される方は、販売の有無を確認し書店流通を行っている場合、そのシステムについて詳しく確認することが重要です。

 ■書店流通の確認事項
 ・委託配本なのか、注文流通なのか
 ・流通する書店数と期間
 ・書店に対する営業方法と宣伝費用の分担
 ・著作の所有権は誰にあるのか
 ・返品後の修復費用の分担

4. 見積書や契約書の内容をくわしくチェックする
 書籍の見積り項目は多岐にわたります。この見積り項目がわかりやすく正確に表現されているかをチェックします。入稿方法や印刷方式、製本方法、制作部数、本文や表紙、カバーや帯の印刷の色数によって制作費は大きく変動します。制作会社によってはたとえば価格表の表示価格で、表紙が1色刷りのところもあれば4色刷りが標準仕様といった具合でまちまちです。まれに見うけられるのですが、見積数項目を省略し〈その他一式〉というような見積書は注意が必要です。

契約書は契約時に必ず取り交わします。契約書のない制作会社は要注意ですし、契約書があっても表記が分かりづらかったり、曖昧な場合は説明を求め、明確な回答がないときは契約を一旦延期しましょう。

 また、契約時に制作費用の一括払い半額以上の多額の前払い金を要求するような契約は大変危険ですので契約を中止すべきです。キャンセル料の項目も重要です。キャンセル料の発生が制作過程のどの時点かの確認と、キャンセルが発生したなかで、制作会社と著者の責任領域を明確化したものでなければ契約を中止しましょう。

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